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県教組からのお知らせ

県教組からのお知らせ

「長崎市教育委員会の教職員の教育権侵害に対する長崎県教組書記長談話」発出

注目重要
書記長談話の発出について
 長崎県教職員組合は2月1日、「長崎市教育委員会の教職員の教育権侵害に対する長崎県教組書記長談話」を発出しました。組合員については来週中に文書が配付されます。

2022年2月1日

 

長崎市教育委員会の教職員の教育権侵害に対する長崎県教組書記長談話

 

 

長崎県教職員組合

書記長 上原貴之

 

1.事実の概要

(1)長崎市内小学校教諭による「処分取り消しを求める審査請求」

 2021年11月9日、長崎市内の小学校教諭が代理人を務める弁護士と共に記者会見を行いました。昨年勤務していた市立小学校の見学学習で東彼川棚町の石木ダム建設予定地を訪れ、児童の感想文を住民に渡したことなどを理由に、長崎市教育委員会が今年、文書訓告とした処分を「無効」として取り消すよう、長崎市公平委員会に10月7日、審査請求し、20日に受理されたことを公表しました。また、請求が認められなかった場合、長崎市を相手に訴訟も検討しているとしました。

(2) 「自然、平和、人権を考える」を趣旨とした川棚地区での見学学習の概要

 審査請求書などによると、当該教諭は2020年11月11日、担任のクラスを含む6年生を引率し、「自然、平和、人権を考える」を趣旨とした見学学習を実施しました。川棚町の自然、特に昆虫等の観察や戦争遺構等にも訪れる総合的な見学学習として実施されましたが、その中で、長崎県と佐世保市が石木ダム建設を計画する川原地区を訪問し、建設に反対する住民から話を聞くなどしました。ダム建設に関して予定地区住民の一部と行政が対立しており、紛争になっている事態に配慮し、片方の主張に偏った学習にならないよう、県河川課及び佐世保市水道局に連絡を取り、ダム建設に関する説明を求めたようですが、断られたとのことで、ダム建設推進側の考え方は、ホームページなどを通して事前学習したとのことです。

(3)「訓告処分」の概要

 長崎市教育委員会は2021年7月、下記事由により当該教職員を文書訓告処分としました。

①見学後、児童の感想文を保護者の許諾や校長の確認がないまま学校外へ提供し、石木ダム建設に反対する住民を支援する市民グループのブログに一時掲載されたこと。

②当該教職員が、経緯確認のための文書作成を拒否するなど校長の命令に従わなかったこと。

  

2.本事案に関する考え方

(1)当該見学学習について

当該見学学習は、「自然、平和、人権を考える」とするねらいのとおり、総合的な学習計画となっており、十分な学習効果を発揮するものと考えられ、意義深い学習と評価します。

また、社会的な係争となっているダム建設に関する内容を取り入れたことも、昨今、SDGsなどで注目されている持続可能な社会づくりをめざした開発目標の教育版であるESD(Education for Sustainable Development:持続可能な開発のための教育)の考え方に沿うものであり、教育の現代的要請にこたえる優れた実践となる可能性を秘めています。

(2)校長及び長崎市教委の認識について

学校運営上、見学学習の実施計画内容を校長が把握してないとは到底考えられず、見学前に十分検討され、合意形成ができていたと推定できます。とは言え、長崎市の学校であれば、同様のねらいを市内の見学学習で達成することもできるはずです。あえて川棚町を見学地として選定したということは、「石木ダム建設にまつわる係争状態」が、学習の大きな目玉であることは否めず、校長は、この点を見学学習に組み込むことの社会的なリスクを十二分に予見できたはずです。当然に、長崎市教育委員会とも協議した上で、リスクを回避した上で、十分に目的を達成できるし、意義ある学習であると認識し、この実施計画を承認したはずです。しかも当日は管理職も随行しています。

仮に、記者会見で述べられているように、見学後の政治的な圧力によって態度を翻し、処分に至っているとすれば、大きな問題を孕んでいることになります。係争になっている事象のみを大きく取り上げる報道に誘発された面があるものの、政治的な圧力を示すような事態の進展を、強く推定させるやり取りが長崎市のホームページでも確認できました。

(3)当該教職員の処分事由について

①児童感想文の扱い

小学校において見学学習を実施した場合、「礼状・感謝状」等を学習の一環として書かせることは、極めて一般的なことであり、学習のまとめの契機として不可欠と言ってもよい活動です。また、それを見学先に送付することも一般的に行われており、何ら問題のある行為ではありません。送付に際して、学校名・児童名なども特に伏せることはなく、保護者の了解等もとることはありません。

ただ、前述したように社会的な係争地への見学学習ですから、児童名を伏せて送付したのは一定の配慮と言えます。したがって、この事由で職員を処分することは、行き過ぎであり、職権濫用にあたると考えます。

  ②職務命令違反

 長崎市教育委員会は、校長が経緯確認のための文書作成を当該教職員に指示したところ、その指示に従わなかったことを、職務命名違反としていますが、学校現場における職務命令には位置づけが曖昧な面があり、そのやりとりを詳細に見なければ、命令違反があったのかどうか確定することは困難です。日常的に音声録音しているわけでもないため、係争者の双方が相手の意図を読み違えている場合も多く、水掛け論になりがちです。

というのも戦前の反省から、戦後の教育法制度においては、特に教育内容にかかわる件については上司の「指揮・命令権」は排除され、「指導・助言権」に限定されました。教職員の上司が部下に対して指揮・命令権を行使できるのは、服務に関する事項に限られています。上司の働きかけを受けた職員が、それが指導・助言なのか、指揮・命令なのか確認することは稀ですし、上司もそれを敢えて曖昧にした上で働きかけることも多々あります。したがって、職務命令違反を処分の事由として挙げる場合は、明示的に職務命令がなされる必要があります。本事案がそれにあたるかどうかは現時点では不明です。

 

3.本事案の問題点とその影響

本事案の最大の問題点は、代理人の中川弁護士が述べている通り、「この件は、教育内容に関する処分ではない」と行政が主張したとしても、結果的に、教育行政による教職員の教育権を侵害することになることです。旭川学テ事件で最高裁が認めた教職員の憲法上保障された「教育の自由」を侵害し、教育行政による教育内容への政治介入を禁じた教育基本法16条(旧10条)の「不当な支配」にあたる可能性が極めて高いと言わざるを得ません。裁判闘争に発展すれば、戦後教育裁判史上、重要な教育法事件となることは間違いありません。

本事案の教職員は、県教組組合員ではありませんが、この事案の影響は、広く全国に及び、政治的な紛争地、社会的な係争に関することを、特に行政の意思に対して不利益に働く可能性がある場合、公権力を介して不当な処分を受けるとの推定を以て、教職員の教育の自由を奪い、教育現場全体の萎縮を生むものです。長崎県教組としては、そのような事態に至らないよう注視していく必要があります。

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